2026年10月16日(金)から17日(土)までの32時間、東京・秋葉原UDXにAI映像クリエイターが再び集まり、徹夜で作品づくりに挑みました。

その名も「Arena Peak Asia 東京大会」。

選考を通過したチームが、開会と同時に発表される課題に向き合い、32時間でオリジナルのAI短編映像を完成させるオフライン・スプリントです。
今回は東京だけでなく、上海・韓国の会場と同時開催。
中日韓の3地域から本選に進んだチームが、同じテーマで競い合いました。

総賞金は80,000 USD以上。
金賞は$7,000+300,000 Tapies、さらに音響・IP・監督などの部門賞、日本・韓国の地域賞、そしてTapNowと新レーベル「Glanze」が選ぶ「アリーナブラック」まで用意されました。
制作にはKling 4.0が使われ、18日にはお台場の映画館で上映会と授賞式が開かれています。

テーマは「E.C.H.O.(エコー)」。
前回6月の「Venomous Instincts(毒性のある本能)」から一転、今回は「応答」と「共鳴」がキーワードです。

スムージースタジオは、6月の「TapTV Arena Tokyo · 36H Anime Sprint」に続き、今回もTapNow日本担当者に話を伺いました。

聞き手について 本記事は、株式会社スムージースタジオ(生成AI専門の映像制作会社)のリードエンジニア・弘田朗が、TapNow AIの日本担当者に行ったインタビューを再構成したものです。イベント情報・賞金・結果等は2026年10月時点のものであり、最新情報は公式サイト(tapnow.ai)および公式X(@TapNow_JP)をご確認ください。

目次
  1. イベント概要:秋葉原・32時間・中日韓同時開催
  2. 「なぜ、もう一度東京なのか」——36時間から32時間、そしてアジア同時開催へ
  3. テーマ「E.C.H.O.」——AIが加わったとき、作品に人の痕跡は残るか
  4. 賞の再設計——部門賞・地域賞・アリーナブラック
  5. 結果発表:日本勢のmaru『いってらっしゃい』がアジア総合銅賞
  6. 上映会と「Glanze」——ハッカソンを「作って終わり」にしない
  7. スムージースタジオのクリエイターが語る32時間
  8. 矢野とチームを組んだクリエイターの声
  9. まとめ:32時間の先にある「作品の人生」

イベント概要:秋葉原・32時間・中日韓同時開催

まず、公式に公開されている開催概要を整理しておきます。

項目内容
イベント名Arena Peak Asia 東京大会(Arena Peak Asia Tokyo|32時間AI映像スプリント)
制作期間2026年10月16日(金)〜17日(土)の32時間
制作会場秋葉原 UDX AKIHABARA SPACE/UDX Conference 6F
上映会・授賞式2026年10月18日(日)ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場 スクリーン9
同時開催上海会場・韓国会場
規模東京45チーム。中日韓3地域から計58チームが最終審査に進出
テーマE.C.H.O.|エコー(課題・サブテーマは開会時に発表)
総賞金80,000 USD以上(賞金+Tapies+賞品)
主催TapNow AI
公式ページapp.tapnow.ai/event/66

「なぜ、もう一度東京なのか」——36時間から32時間、そしてアジア同時開催へ

——6月のハッカソンから、わずか4ヶ月での東京再開催です。しかも今回は上海・韓国との同時開催。前回お話を伺ったときには「顔の見えるコミュニティをつくる」という言葉が印象的でしたが、今回はその先に何を見ていたのでしょうか。

「6月の東京大会で、私たちは手応えと同時に、ひとつの課題を感じていました。会場の熱量は本当にすごかった。でも、その熱量が東京の中で完結してしまうんです」

「日本のAI映像クリエイターは、世界的に見ても表現の引き出しが多い。アニメ、MV、広告、ショートドラマ。でも、同じ時代に上海やソウルで何が作られているのかを、肌で比べる機会はほとんどありません。だから今回は、同じテーマ、同じ時間、同じ条件で、3つの都市が同時に作るという形を選びました。東京のクリエイターが、自分の作品をアジアの物差しで見る。それがArena Peak Asiaの一番の目的です」

——制作時間は前回の36時間から32時間になりました。

「3都市で同時にスタートして、同じ締切で提出してもらい、翌日には上映と授賞式まで行う。そのスケジュールの中で、制作時間をどう確保するかを考えた結果です。時間が短くなった分、『どこをAIに任せ、どこを自分の判断に残すか』という前回お話しした問いは、さらに鋭くなったと思います」

——参加者の投稿を見ていると、「提出は締切の5分前だった」「AIが進化しても、まだまだ楽には作らせてくれない」という声がありました。スムージースタジオの現場でも、モデルが良くなるほど、逆に「最後の詰め」にかける時間が増えている実感があります。

「その通りだと思います。Kling 4.0のようなモデルで、1ショットの品質は確実に上がりました。でも、ショットが良くなるほど、つなぎ、間、音、物語の整合といった、人が判断する部分の粗が目立つようになる。32時間の最後の数時間は、ほとんどのチームがそこと格闘していました。私たちはそれを、AI映像制作が次の段階に入ったサインだと受け止めています」

テーマ「E.C.H.O.」——AIが加わったとき、作品に人の痕跡は残るか

——前回のテーマ「Venomous Instincts(毒性のある本能)」は、AIアニメで定番の「かわいい」とは真逆の、危うくダークな世界を描かせるものでした。今回の「E.C.H.O.(エコー)」は、方向性がずいぶん違いますね。

「前回は、AIが苦手な表現領域に挑んでもらいました。今回はもう一歩踏み込んで、『AIと作ったとき、その作品は誰の声なのか』という問いを置きたかったんです」

「私たちはテーマをこう説明しています。創作は、ひとつのシグナルを送り出すこと。ひとつの着想がテクノロジーによって映像になり、その映像が観客に届くことで、新しい解釈や応答が生まれる。だから参加者への問いは、『あなたの作品は、何に応えようとしていますか』です。AIが創作に加わったとき、人の経験、感情、判断は、作品にどんな痕跡を残すのか。それを映像で答えてほしかった」

——今回も、具体的な課題とサブテーマは開会時の発表でした。

「はい。事前に公開したのは『E.C.H.O.』という言葉だけです。開会と同時に、具体的な課題と複数のサブテーマを発表しました。3都市のチームが同じ条件でスタートするためでもありますし、ひとつの正解を求めないという意思表示でもあります。同じ言葉から、どれだけ違う物語が出てくるかを見たかった」

——作品を見ると、親の敷いたレールの上を歩く少女、雨降りの子と晴れの子、言葉の通じないロボットと猫など、「響き」を人間関係や記憶に置き換えた作品が多い印象でした。

「そこが今回一番うれしかったところです。『エコー』を音や反響として文字どおりに描いたチームもあれば、伝えたかったのに伝えられなかった想いとして描いたチームもある。異なる周波数の差から新しい音を生む『ヘテロダイン』をタイトルにしたチームもありました。AIが映像を生成していても、どの作品にも作り手の経験や感情がはっきり残っていた。テーマの問いに対して、参加者がそれぞれのやり方で答えてくれたと感じています」

賞の再設計——部門賞・地域賞・アリーナブラック

——賞の構成も前回から大きく変わりました。

賞賞金Tapies対象
金賞$7,000300,000独創性、技術力、ストーリーテリング、完成度を総合的に評価した最優秀作品
銀賞$2,800150,000テーマ表現と制作の質の両面で確かな実力を示したチーム
銅賞$2,800120,000発想、技術の活用、完成度で際立った強みと独自性を示した作品
部門賞(視覚効果/学生/音響/アート/IP/監督)各$1,000各60,000各分野で最も優れた作品・チーム
アリーナブラック$500500,000TapNow & Glanzeレーベルが独自の表現を持つ5作品を選出
Arena Peak Japan/Korea各$1,000各100,000個人のスタイルと継続的な創作のポテンシャルを持つ地域チーム
入選賞$6,000(総額)800,000(総額)最終審査に進んだ作品

——特に目を引くのが、音響賞、IP賞、監督賞の新設です。

「前回の審査を通じて、作品の印象を大きく左右しているのに、評価の言葉が足りていない領域があると感じていました。その代表が音です。AI映像は画が先に注目されがちですが、観客の感情を動かしているのは、実は音であることが多い。だから音響賞を独立させました」

「IP賞は、印象的なキャラクター、練られた世界観、魅力ある物語を持ち、シリーズ化や長編化の可能性がある作品に贈る賞です。監督賞は、演出、テンポ、制作の統括を評価します。32時間で作品をまとめ上げるには、チームの中に『誰が最終判断をするか』がはっきりしている必要がある。その役割に光を当てたかった」

——日本エリア賞を受けたチームARSは、サウンド担当のSentakuさんが「初めてのハッカソン」だったと書いていました。音響の専門家がチームに入る流れは、AI映像のチーム編成が成熟してきた証拠のように見えます。

「まさにそうです。今回は、脚本、映像生成、音、それぞれの専門家が組んだチームが多かった。所属する会社が違う人同士、ときには事業上は競合する会社の人同士がチームを組んでいたのも印象的でした。ハッカソンが、会社の垣根を越えたクリエイターの出会いの場になっている。それは私たちが一番望んでいたことのひとつです」

結果発表:日本勢のmaru『いってらっしゃい』がアジア総合銅賞

——結果についても伺います。18日の上映会で東京大会の入選作品と日本エリア賞が発表され、19日にアジア全体の結果が公開されました。

「金賞は上海会場のMATCiNBOX『CALL ME HOME』でした。日本からは、maruの『いってらっしゃい』が総合銅賞を受賞しています。3都市の作品が並ぶ中で、日本のチームが総合賞に入ったことは本当にうれしい結果です」

賞作品チーム
総合 銅賞『いってらっしゃい』maru
ベストIP賞『Re:ROAD』あんきも
Arena Pick賞『Dystopia | ディストピア』Holiday Hobby
日本エリア賞『TALK BACK』ARS
日本エリア賞『KAERU — where voices return』FUSION
日本エリア賞『Re:ROAD』あんきも

東京大会の入選(ノミネート)は、上記のmaru、ARS、あんきも、FUSIONに加え、M.A.K『Hertz』、Togan Unit-1『Tokyo Synchro (Across The Void)』、FANDOM FILM『フレームアウト』、O.T. LAB『Beyond the Wall』、team K『遺書を、叫べ』、STUDIO 異次元『やまびこ (Yamabico)』の計10作品です。

——総合銅賞のmaruは、テーマを聞いてチームで決めたゴールを「笑えて、泣ける作品をつくろう」だったと振り返っていました。

「笑いと涙の両方を狙うと、32時間で観客の感情を2回動かすことになります。これは簡単なことではありません。技術的に派手な作品が並ぶ中で、物語の設計で勝負したチームが評価されたことは、今回の審査の姿勢をよく表していると思います」

——受賞を逃したチームからも、「この悔しさを次回への起爆剤にする」「次は部門賞や金賞を取りにいく」という声が多く上がっていました。

「それが一番うれしいですね。賞はあくまで一つの結果です。32時間で作品を完成させて提出した時点で、どのチームも大きな価値を生んでいます。前回のときにもお話ししましたが、その考えは今も変わっていません」

上映会と「Glanze」——ハッカソンを「作って終わり」にしない

——今回は会議室ではなく、お台場の映画館のスクリーンで上映会と授賞式が行われました。会場ではクリエイター支援プログラム「Glanze」も発表されています。

「32時間で作った作品を、本物のスクリーンで、観客と一緒に観る。これは今回どうしても実現したかったことです。制作者にとって、自分の作品が劇場の大きな画面と音響で流れる体験は、何よりの報酬になると思っています」

「Glanzeは、9月の第83回ベネチア国際映画祭で発表した、AIネイティブなシリーズや映画のための配信プラットフォームです(発表リリース)。ハッカソンで生まれた作品やクリエイターを、連載や配信につなげていくための受け皿だと考えてください。今回の『アリーナブラック』はTapNowとGlanzeレーベルが選ぶ賞ですし、IP賞の審査観点に『シリーズ化や長編化の可能性』を入れたのも同じ理由です」

——ハッカソンが、コミュニティづくりの場から、作品とクリエイターを次の仕事へ送り出す場に変わりつつある、ということですね。

「そうです。私たちが目指しているのは、クリエイターが作品へのフィードバックを得て、業界の人と出会い、継続的な創作や協業につなげられる場です。32時間は入り口で、その先にある作品の人生まで一緒に設計していきたいと思っています」

スムージースタジオのクリエイターが語る32時間

今回の東京大会には、スムージースタジオのAI Creative Director 2名が出場しました。
普段は企業向けのAI映像制作を手がける2人に、32時間の挑戦を振り返ってもらいます。

吉堀 佳子/スムージースタジオ AI Creative Director

吉堀は今回、普段の受託制作とは異なる、ゼロからの作品づくりに挑みました。

——32時間でゼロから映像作品を作ってみて、いかがでしたか。

「参加できたこと、作品を完成させられたこと、そしてクリエイターとしての自分の現在地を知れたこと。そのすべてが最高の経験になりました。受賞には至りませんでしたが、自分たちが作った作品には胸を張って誇りを持っています」

「普段はクライアントの要望を形にする仕事が中心です。だからこそ、自分の内側からテーマを掘り下げて物語を生み出すことには、まだまだ力不足だと痛感しました。特に、ストーリーに深みを持たせることや、伏線・仕掛けを考えることには大きな課題を感じています」

「一方で、人間、やれば32時間で、まったくのゼロから6分間の映像作品を完成させられるんだという発見もありました。足りないものが見えたからこそ、『ここから伸びしろしかない!』と、むしろワクワクしています」

——3人1組のチームは、どんな雰囲気でしたか。

「メンバーには本当に恵まれました。3人それぞれが自分の意見をしっかり持ち、遠慮なく伝え合うことができたんです。誰かが一方的に主導するわけでも、誰かが言いたいことを飲み込むわけでもない。それぞれの強みや視点が自然と噛み合って、想像以上にバランスの取れたチームでした。だからこそ、完成した作品には自信があります」

——会場の様子で印象に残っていることは?

「100人以上の参加者が、最新のAI動画技術を使って、それぞれの作品に本気で向き合っている。その空間に身を置けたこと自体が大きな刺激でした。最先端の技術に挑戦している人たちは、やはり好奇心が旺盛なのかもしれません。新しいことを面白がり、目を輝かせて制作している方が本当に多かったです」

「新しい技術にワクワクしながら挑戦する人たちが集まる場所には、人を前向きにする力がある。改めてそう感じた32時間でした」

——作品の中で、特に思い入れのある場面はありますか。

「作品には『花いちもんめ』を歌うシーンがあります。実はこの歌声は、私の3人の娘たちに協力してもらいました。AIの音声生成は日々進化していますが、生身の人間の声にはやはり独特の魅力があります。子どもたちの自然な声が加わったことで、よりリアリティが生まれたと感じています」

「完成した作品を娘に見せたら、怖がりながらも最後まで真剣に見てくれたんです。以前ひとりで作った動画を見せたときは『何が何だかわかんない』と匙を投げられたこともあったので(笑)、物語の世界に入り込んで見てくれた。それだけで、私にとっては大成功です」

——次に向けた課題を教えてください。

「事前準備です。大まかなテーマは事前に発表されていたので、もっと早くから考えを深めておけば、作品にさらに奥行きを持たせられたと思います。物語の背景を丁寧に設計すること、観客の予想を裏切る仕掛けを用意すること、伏線を張って最後に回収すること。そうしたストーリーテリングを、これからもっと磨いていきたいです」

「挑戦してよかった。完成させられてよかった。そして、まだまだ上手くなりたい!次回も絶対に参加します。このイベント、一度経験するとクセになりますね(笑)」

矢野 瑠基/スムージースタジオ AI Creative Director(本大会では脚本・全体統括)

——参加した理由と、チームでの役割を教えてください。

「前回すごくいい経験ができたのと、マナブさんに誘われたからです。チームでは、脚本や全体の統括を担当しました」

——TapNowを使って、実務に活かせそうな発見はありましたか。

「TapNowは、ノードが見やすく、チームで使いやすいと思いました」

矢野とチームを組んだクリエイターの声

矢野と同じチームで出場したManabuさん、NOBUさんにも話を聞きました。

Manabu/映像制作補助

——参加した理由と、チームでの役割を教えてください。

「ヤノさんとは前回のハッカソンのときから、次はKling 4.0の検証と最適な使い方の模索をしようと計画していました」

——TapNowを使って、実務に活かせそうな発見はありましたか。

「TapNowは毎回使っていて、今後の可能性を常に感じています」

——他チームの作品で印象に残ったものは?

「『TALK BACK』です」

——次回も出るとしたら、何を変えますか。

「次は、できるだけ自分も生成する側としてしっかり入りたいです」

NOBU/犬とロボットの参照用デザインとアニメーション

——参加した理由と、チームでの役割を教えてください。

「ヤノさんに誘われたからです。一度くらいは経験しても良いなと思いました。チームでは、犬とロボットの参照用デザインとアニメーションを担当しました」

まとめ:32時間の先にある「作品の人生」

——最後に、次のArena Peakに挑戦したいクリエイターへメッセージをお願いします。

「AIで映像を作る人は、これからもっと増えていきます。そのときに残るのは、『この人の作品だ』とわかる声を持ったクリエイターだと思います。E.C.H.O.という問いは、今回限りのテーマではありません。自分の作品が何に応えようとしているのか。それを持ってきてくれる人と、また会場で会えるのを楽しみにしています」

6月の36時間・30チームから、今回は32時間・中日韓3都市の同時開催へ。
TapNowのハッカソンは、わずか4ヶ月で規模も舞台も大きく広がりました。
それでも参加者の発信から伝わってくるのは、ツールが進化しても、物語を詰め、音を合わせ、最後の判断を下すのは人だということです。

関連リンク

監修者:株式会社スムージースタジオ 弘田 朗(ひろた たから)
監修者
株式会社スムージースタジオ
弘田 朗(ひろた たから)
AI動画クリエイター/DXエンジニアとして、広告代理店や事業会社の動画制作・デジタル変革を多数支援。
AIを活用した動画生成やクリエイティブ最適化の実務経験を持ち、スピードと品質を両立させた制作フロー構築を得意とする。特に広告配信におけるABテスト用動画の生成や、ブランド一貫性を担保したAI活用の設計に定評がある。