2026年6月27日(土)10:00 から 6月28日(日)22:00 まで、東京・秋葉原のUDX Gallery Nextで、ある異色のクリエイティブハッカソンが開催されました。

その名も「TapTV Arena Tokyo · 36H Anime Sprint」。

30チーム・最大90名のクリエイターが、36時間というタイムリミットの中で180秒以上のオリジナルAIアニメ短編を作り上げる、オフライン・クローズド形式スプリント。
制作用PCの会場外への持ち出しは禁止、コミュニケーションはDiscordと現場のみという、徹底した「閉じた制作環境」が組まれました。

賞金総額は12,900 USD(1st Prize 3,500 USD / 2nd 2,000 USD / 3rd 1,000 USD ほか8カテゴリ)、加えてプラットフォーム内クレジット「Tapies」が66万単位用意され、規定時間内に適格な作品を完成・提出した26チーム向けの Excellence Awards(賞金合計3,900 USD + 520,000 Tapies)まで設計されたフルセットの賞構造です。

そして今回のハッカソンを最も特徴づけているのが、当日発表されたクリエイティブテーマ「Venomous Instincts(毒性のある本能)」でした。

主催はAI映像制作プラットフォームTapNow AI、協賛は4K動画生成モデル「Seedance 2.0」、そして審査にはTapNow・ByteDance関連チームおよび外部の専門審査員が参加するという、グローバルな技術連携の上に成立したイベントです。

スムージースタジオは、2026年4月にTapNow AIと全編AI生成のショートドラマを共同制作し、6月には同社の思想を掘り下げる独占インタビューを実施しました。
今回はハッカソン直後のTapNow日本担当者に、開催の意図、テーマ「Venomous Instincts」の設計思想、審査員の顔ぶれ、そして今後の展望を伺いました。

聞き手について 本記事は、株式会社スムージースタジオ(生成AI専門の映像制作会社)のリードエンジニア・弘田朗が、TapNow AIの日本担当者に行ったインタビューを再構成したものです。イベント情報・賞金・体制等は2026年6月時点のものであり、最新情報は公式サイト(tapnow.ai)および公式X(@TapNow_JP)をご確認ください。

Table of Contents
  1. イベント概要:秋葉原・36時間・30チーム
  2. 「なぜハッカソンなのか」——TapTV Arenaグローバルツアーと東京の位置づけ
  3. テーマ「Venomous Instincts」——なぜ”毒”と”本能”を選んだのか
  4. 審査員:TapNow × ByteDance × 日本のAIクリエイティブの最前線
  5. 5軸の審査基準が示すAI映像の到達点
  6. 賞金12,900 USD + 66万Tapies——8カテゴリの賞設計
  7. 36時間という時間設計の哲学
  8. スムージースタジオ視点:なぜこの動きに注目すべきか
  9. まとめ
  10. 関連リンク

イベント概要:秋葉原・36時間・30チーム

まず、公式に公開されている開催概要を整理しておきます。

項目内容
イベント名TapTV Arena Tokyo · 36H Anime Sprint
日程2026年6月27日(土)10:00 〜 6月28日(日)22:00
会場UDX Gallery Next(東京・秋葉原)
形式36時間オフライン・クローズド制作スプリント
チーム数30チーム(各2〜3名)
クリエイティブテーマVenomous Instincts(具体的なクリエイティブブリーフは当日発表)
制作ツールTapNow.ai
最終提出物180秒以上のAIアニメーション短編(MP4、1080Pまたは4K、16:9)
言語制限なし(英語字幕付与を推奨)
賞金総額12,900 USD + 660,000 Tapies
協賛・審査Seedance 2.0、ByteDance関連チーム、外部専門審査員

応募は早期に満席となり、応募条件を満たしたチームの中からファイナリスト30チームが選出されました。

会場では基本ネットワーク・制作スペース・技術サポート・飲食サポートが提供され、参加チームは自前のノートPC(推奨2台以上)と制作機材を持ち込み、競技期間中はそのPCを会場外に持ち出すことが禁止されるという徹底ぶりでした。

「なぜハッカソンなのか」——TapTV Arenaグローバルツアーと東京の位置づけ

——率直に伺います。TapNow AIは今、グローバルで複数のコンテストやイベントを並行して走らせています。SXSWでの『TapNow 2.0』発表、『Soulscape』、『10,000 Parallel Universes』、そして杭州の『TapTV Arena Global AI Animation Hackathon』。そこにさらに東京で36時間のオフラインハッカソンを重ねる必要は、本当にあったのでしょうか。

「とても本質的な問いをありがとうございます。私たちもこの企画を立てるとき、社内でまさに同じ議論をしました。結論から言うと、『オンラインのコンテストだけでは絶対に拾えないもの』が存在する、というのが私たちの答えです」

TapTV Arenaは、世界中のAI生成コンテンツクリエイターに向けたオープンな競技型プラットフォームを目指すグローバルツアーです。各都市で、その都市らしいAI映像のチャレンジを実施していく。東京エディションは、その中で『AIアニメーション』に正面から向き合う唯一のスプリントとして設計しました」

「『10,000 Parallel Universes』のような長期のオンラインコンテストは、作品の到達点を高めるのに最適な仕組みです。3ヶ月、半年と時間をかけて、丁寧に作品を磨き上げる。これは私たちが大事にしているアプローチのひとつです」

「一方で、AI映像制作にはもうひとつの真実があります。それは、『制限時間が極端に短いとき、人とAIの協業の本質が露わになる』ということです。36時間で180秒以上のアニメを作ろうとすると、参加者は『どこをAIに任せ、どこを自分の判断に残すか』を、毎分の意思決定として迫られます。長い時間があれば隠せる迷いや甘えが、36時間という時間設計の中ではすべて作品の表に出てくる」

「私たちはこれを、『AI制作の解像度を一気に上げる装置』として設計しました。普段から作っている人ほど、この36時間で自分の制作プロセスの輪郭が見えるはずです」

——スムージースタジオの現場でも、納期がタイトな案件のときほどAIの使い方が研ぎ澄まされるという実感はあります。「うまく使えていない部分」が時間に押し出されて見えてくる、という感覚は近いと思います。

「まさにそれです。そして、もうひとつ大事な目的があります。『顔の見えるコミュニティ』をつくること。オンラインだけだと、トップクリエイターと、これから始める人が同じ床で作業する、という体験はどうしても生まれにくい。秋葉原の会場で、隣のチームの画面が見える、休憩室でモデル選びの会話が聞こえる、深夜の集中時間を一緒に乗り越える——この『身体性のある交流』が、AI映像制作のコミュニティを次のフェーズに押し上げる、と私たちは考えました」

テーマ「Venomous Instincts」——なぜ”毒”と”本能”を選んだのか

——今回のハッカソンで話題になっていたのが、クリエイティブテーマ『Venomous Instincts(毒性のある本能)』です。AIアニメといえば「かわいい」「ポップ」といった方向の作品が多い中で、あえて真逆のテーマを選んだ。この選択には強い意図があったはずです。

「はい、これは社内でも最も議論を重ねた部分です。私たちが注目したのは、『完全に善でも悪でもないにもかかわらず、強く惹きつけられる人物、関係性、世界』です。危険な主人公、脆い信頼関係、互いに利用し合う関係、極限状態での選択、完全には信じられないルール——そして、人間性の中にある狡猾さ、欲望、生存本能、制御不能な衝動。これらをAIアニメで描けるか、というチャレンジでした」

——なぜ、「かわいい」 ではなく 「Venomous」 だったのですか。

「率直に言うと、AIアニメは今、かわいいの領域では十分すぎるほど成果が出ているんです。NijiJourney、Seedance 2.0、Vidu Q3——どのモデルも、明るくポップな世界の描写は得意になってきている。実際、私たちの『10,000 Parallel Universes』への応募作品にも、かわいいの極地と言える作品が多数集まっています」

「だからこそ、東京エディションでは『AIが最も苦手な領域』に正面から挑むことに意味があると考えました。道徳的なグレーゾーン、心理的な緊張、毒性のある魅力、裏切りと偽装——これらは、単にダークな色味を使えば描けるものではありません。人物の表情、間合い、視線、台詞の選び方、カットの切り方——映像表現としての成熟が問われる領域です」

「Venomous Instinctsは、参加者に対する挑戦状でもあります。『AIで本当に深い物語を描けるのか?』『AIで人間性の影を表現できるのか?』——この問いに、36時間で答えてもらいたかった」

——スムージースタジオの現場でも、AIで明るく可愛いものを作るのと、暗く緊張感のあるものを作るのは、難易度が桁違いだという実感があります。「毒性のある関係」を3分で物語として成立させるのは、従来のアニメ制作でも難しい。そこに36時間というプレッシャーを乗せたのは、相当攻めた設計だと思います。

「ありがとうございます。私たちはこのテーマを選んだ瞬間に、応募チームの傾向が変わることも覚悟していました。『かわいい』で人気を集めているクリエイターの何人かは、おそらく今回は参加を見送ったはずです。それでもいい。私たちは、AIアニメの表現の幅そのものを広げることを最優先したかった」

「テーマの空気感を、私たちはこう定義しています——『毒性があり、魅惑的で、危険で、狡猾で、予測不能。不安を感じさせながらも、目を離せない世界』。この空気を3分間維持できるチームがどれだけあるか。それが今回の本当のチャレンジでした」

——具体的なクリエイティブブリーフは当日のオープニングで発表される設計でしたね。これは「事前準備で詰めすぎないように」という意図ですか。

「その通りです。事前にテーマの方向性は公開しますが、具体的なお題は当日まで伏せる。これによって、参加者は『方向性に対する自分の解釈』を持ち寄りつつ、当日のブリーフで強制的に修正される。事前準備の罠と、即興の鋭さ、その両方を引き出すための設計です」

審査員:TapNow × ByteDance × 日本のAIクリエイティブの最前線

——多くの読者が気になっているのは、このハッカソンを審査したのはどなただったのか、という点です。審査員の顔ぶれを教えてください。

「はい、本コンペティションは、TapNow、ByteDance関連チーム、そして外部の専門審査員によって審査されます。日本のAIクリエイションシーンの主要な軸を網羅するべく、AIクリエイション、アニメーション・映像、コンテンツプラットフォーム、クリエイティブ業界全般の専門家を招きました。これにより、専門性・技術的洞察・業界的信頼性を備えた審査体制を実現しています」

東京エディションの審査員陣は以下の通りです(敬称略)。

審査員背景
Araimono(新井モノ)AiHUB株式会社 CTO。日本のエンタメに特化した生成AI基盤モデルの研究開発を主導。NVIDIA Inceptionプログラム参加企業として、画像生成AI・LLM・3Dモデリング・音声合成を統合したAIオーケストレーション基盤を構築。日本のアニメ産業を守る立場からAI×エンタメの倫理的フレームワーク構築にも積極的に関与する論客。X: @araimonokaiy
YachimatAIアニメスタジオ Yachimat OÜ CEO/AI Director。「AI作監(AI作画監督)」という新しい役割の必要性を業界に提示するなど、AIアニメ制作の現場の方法論を継続的に発信。Xでは1.7万人を超えるフォロワーを持ち、AIアニメ制作現場の知見を発信し続ける、業界きってのAIアニメ実務家。X: @yachimat_manga
KlausTapNow Co-founder。TapNow AIの共同創業者として、グローバルなクリエイティブAIプラットフォームの設計思想を牽引。本ハッカソンでは、プラットフォーム提供者としてだけでなく、世界各都市での「TapTV Arena」シリーズを統括する立場として参加。
Keigo Matsumaru(松丸 彗吾)D-Lab(メンタリストDaiGo氏のオンラインコミュニティ)の開発・運営責任者。OpenAIの動画生成プラットフォーム「Sora」アプリでローンチ後3週間でフォロワー数1位(Jake Paul、Mark Cuban、Shaqを上回る)を獲得し、Washington Post誌でも「言語を超えた映像をつくるAI専門家」として紹介された日本随一のAI映像クリエイター。山下智久氏のLyric Video制作なども手がける。X: @k_matsumaru
Mystery Guests当日発表(To be announced)。TapNow東京エディションのサプライズ枠として、当日まで公開されない審査ゲストを用意。

「最終的な審査員リストは、イベント前に公式発表されました。審査基準はすべての参加チームに事前共有される形で、公平性・透明性・信頼性を確保しています」

——非常に重厚な顔ぶれですね。AIの技術基盤を語れる方、AIアニメの実制作を最前線でやっている方、グローバルプラットフォームの設計者、そしてSoraの世界でトップを取ったクリエイター。さらにByteDance関連チームが加わる。日本のAI映像領域の主要な軸が、ほぼすべてカバーされています。

「ありがとうございます。私たちが最も意識したのは、『AIが凄い』だけでは評価できない、『アニメが良い』だけでも評価できない、その両方を貫く目線を持った方々を揃えることでした。新井モノさんは技術基盤の側、Yachimatさんは現場の制作論、松丸さんはクリエイターとしての到達点、Klausはプラットフォーム視点、そしてByteDanceは世界最大級の動画プラットフォームTikTokの運営とSeedanceというモデル開発の両方の視点。5つの軸が一つの審査テーブルで交わること自体が、私たちにとっての勝利条件でした」

——スムージースタジオの現場感覚で言うと、特にByteDance関連チームが審査に入る意味は大きいと感じます。Seedanceを実際に開発・運用している側の目線が入ることで、「ツールを使いこなしているか」ではなく「ツールの可能性をどこまで引き出せたか」という、より深い評価軸が成立します。

「まさにそこを期待しています。Seedanceというモデルを作っている側からすると、ユーザーがどんな使い方をしているか、どこまで攻めた表現に挑んでいるかは、次のモデル改良の最大のヒントになります。ハッカソンは、プラットフォーム提供者にとっても学びの場なんです」

5軸の審査基準が示すAI映像の到達点

——審査基準の構成も特徴的でした。5つの軸に、それぞれ重み付けがされている。

基準比重説明
テーマ表現25%作品がVenomous Instinctsの空気感と、当日発表された具体的なクリエイティブブリーフをどれだけ的確に表現しているか。危険性、道徳的曖昧さ、心理的緊張、偽装、裏切り、毒性のある魅力を含む
物語の完成度25%180秒以上の作品の中で、明確な人物、対立、転換点、結末があるか。物語として完結し、感情的な記憶点があるか
ビジュアル完成度20%キャラクター、シーン、ショット、アートスタイルが明確で、全体のビジュアル方向に一貫性があるか
AI技術完成度20%AIアニメーションワークフローの品質、キャラクターの一貫性、画面の安定性、ショットの連続性、最終制作物としての完成度
発信可能性10%ソーシャルメディアでの拡散に適しているか。強いフック、共有しやすいシーン、議論性、二次拡散の可能性

——『テーマ表現』と『物語の完成度』をそれぞれ25%、合計50%置いているのが面白いですね。技術ではなく、まず作品としての話を見るという宣言になっています。

「これは強い意思を込めた配点です。AIアニメの評価は、ややもすると『どのモデルを使ったか』『どんな技術スタックか』に流れてしまいがちです。でも、観客にとって作品の価値は、最終的には何を語ったか、どう感じさせたかで決まる。技術完成度20%は十分に重い数字ですが、それ以上に物語とテーマ表現の合算で50%を置いたのは、『AIアニメも作品として成立しなければ意味がない』という私たちの姿勢の表明です」

「同時に、発信可能性10%を入れているのも今回の特徴です。これは『バズれば勝ち』という意味ではなく、作品が会場の外まで届く力を持っているかを見る指標です。AIアニメはまだ若いジャンルで、観客との接点を作品自身が持っていかなければ広がらない。フック、共有しやすさ、議論を呼ぶ要素——これらも作品の力の一部だと考えています」

——スムージースタジオでも、B2B向けの映像と、SNS拡散用の映像では設計が大きく異なります。「発信可能性」を作品評価軸の中に正規に組み込んでいるのは、AI映像が SNS と地続きにあるという現実を直視した、現代的な評価設計だと思います。

賞金12,900 USD + 66万Tapies——8カテゴリの賞設計

——賞金の構成も非常に細かいです。賞金総額12,900 USDという数字以上に、その分配のされ方に思想を感じます。

賞金(USD)Tapiesリワード対象
1st Prize$3,50020,000 Tapiesテーマ表現、物語、ビジュアル完成度、技術完成度において最も優れた総合成果
2nd Prize$2,00020,000 Tapies高い制作完成度と強い発信可能性を持つ優れた総合成果
3rd Prize$1,00020,000 Tapies創造的表現、技術実行、または完成度において優れた成果
Seedance 2 Special Award$1,00020,000 TapiesSeedance 2を主要ワークフローに使用し、生成コンテンツが最終作品の画面時間の50%以上を占めるチーム
Social Media Award$50020,000 Tapiesソーシャルメディア上で最も強い影響力を示したチーム(#TapNowTokyo)
Best Director$50020,000 Tapies全体演出、テンポ、ショット構成、制作統括が最も優れたチーム
Best Visual$50020,000 Tapiesビジュアルスタイル、ショット品質、アートの一貫性、画面完成度が最も優れた作品
Excellence Awards合計 $3,900合計 520,000 Tapies規定時間内に適格な作品を完成・提出した26チームを対象とする一般優秀賞

——この賞構成、特にExcellence Awardsが衝撃的です。主要賞や特別賞を取らなかった26チームすべてに、賞金とTapiesが配られる。これは事実上、「36時間を完走したこと自体を評価する」設計ですね。

「まさにそこが、私たちが最もこだわった部分です。AIアニメの3分は、想像以上に重い。脚本・絵コンテ・キャラ設定・全カット生成・編集・サウンド・最終仕上げを36時間で全部やる、というのは尋常じゃない労力です。規定時間内に適格な作品を提出した時点で、そのチームは既に大きな価値を生んでいる——私たちはそう考えています」

「主要賞と特別賞だけだと、勝者は数チームに集中します。それ以外の20数チームは、徹夜で命を削ったのに賞には届かない。これは、コンテストとしては正しいかもしれませんが、コミュニティを長期で育てるという観点では極めて不健全です。Excellence Awardsは、その不健全さを正面から正すための設計でした」

——プロの制作会社として深く共感します。スムージースタジオも、スタッフの労働価値を「結果が出たときだけ」で評価することは絶対にしません。生成AIの世界では、結果に至るまでの試行錯誤のプロセスそのものが資産です。完走した全チームに報いる賞構造は、コミュニティ全体の体力を守る設計として、業界全体で参考にすべきモデルだと感じます。

「ありがとうございます。Tapiesというプラットフォーム内クレジットを組み合わせているのも意図的です。現金だけだと、受け取って終わってしまう。Tapiesは、私たちのプラットフォーム上でモデルを動かすためのクレジットなので、『次の作品を作るための燃料』として渡せる。Excellence Awardsで26チームに合計52万Tapiesを分配しているのは、彼らに引き続きTapNowで作品を作り続けてほしいという、私たちからの明確なメッセージです」

——そして Seedance 2 Special Award の存在も非常に象徴的です。「Seedance 2を主要ワークフローに使い、最終作品の50%以上を占めること」という具体的な技術要件が条件になっている。ByteDance関連チームが審査に入っていることと合わせると、これは TapNow × ByteDance の戦略的パートナーシップを賞構造の中に組み込んだ形ですね。

「その通りです。Seedance 2.0は今、AI動画生成モデルの中でも特に4K対応や物理的なカメラパラメータの再現性で先頭を走っています。ハッカソンという実戦の現場で、Seedance 2.0をどこまで使いこなせるかを公式に評価する場を作ることで、モデル提供側にも、ユーザー側にも、明確な前進指標を残せると考えました」

36時間という時間設計の哲学

——36時間という制限は、業界の他のハッカソンと比べてもタフな部類です。48時間、72時間という選択肢もあった中で、なぜ36時間だったのですか。

「これは何度もシミュレーションしました。48時間だと、参加者は無意識に『1日目は構成・2日目は生成・3日目で仕上げ』という従来型の制作プロセスに戻ってしまう。AIを使っていても、結局は人間中心の段取りで動いてしまうんです」

「36時間というのは、従来型の制作プロセスでは絶対に成立しない時間です。AIに思考のかなりの部分を委ねないと終わらない。逆に、AIに任せきりでも作品としては破綻する。人間の判断とAIの実行が並列に走る制作スタイル——私たちはこの新しいワークフローを、『時間』という制約で強制的に引き出したかった」

実際のスケジュールは以下の通りです。

時間セッション内容
6/27 09:00–09:30Check-in参加者の入場、チェックイン、イベント資料の受け取り
6/27 09:30–10:00Openingイベントルール・クリエイティブディレクション・提出要件の説明、そして具体的なクリエイティブブリーフとサブテーマの正式発表
6/27 10:30 〜 6/28 20:00Production主要制作時間。現地で技術Q&Aおよび制作サポートを提供
6/28 20:00–21:30Final Polishing最終編集、BGM、字幕、パッケージング、ファイル整理
6/28 21:30–22:00Submission最終作品を指定システムにアップロードし、提出を確認
イベント後7営業日以内Judging & Announcement審査員が審査を完了し、受賞者および選出作品をオンラインで発表

「ファイナリスト30チームの制作プロセスは、これまでのアニメ制作のどれとも違うものになりました。脚本・絵コンテ・キャラ設定・カット生成・編集・サウンド——これらが直列ではなく、ほぼ並列に進む。ノードベースのTapflow Canvasが、この並列性を支える基盤として機能したのは、開発側として大きな手応えでした」

——スムージースタジオの制作現場でも、AI動画制作は『直列の工程』ではなく『並列の探索』に変わりつつあります。36時間という時間設計が、その変化を可視化する装置になっていたのは、参加者にとっても貴重な経験だったはずです。

——会場の雰囲気はどうでしたか。

「率直に言って、想像をはるかに超えていました。夜中の2時、3時に会場を歩いていると、どのチームも声を出して議論しているんです。『この生成、もう一回回す?』『プロンプトの構造を変えよう』『このカット、Seedanceで撮り直したほうがいい』——その会話が、プロのスタジオの会話と、ほとんど見分けがつかない」

「私たちが特に印象的だったのは、プロのアニメ制作経験者と、AI制作だけで来た若いクリエイターが、同じテーブルで議論している光景です。従来であれば交わらなかった経験軸の人々が、AIという共通言語でフラットに対話している。Venomous Instinctsという重いテーマを前にして、世代も背景も違うクリエイターが同じ問題に頭を突き合わせている——TapNowが目指してきた『創造の共通言語』というビジョンが、物理空間で目に見える形になりました」

スムージースタジオ視点:なぜこの動きに注目すべきか

——最後に、聞き手側からの所感を少しお話しします。

私たちスムージースタジオは、生成AIを実制作の主軸に据える映像制作会社として、日々さまざまなAIツールを評価しています。その立場から見て、TapNow AIの今回のハッカソンは、単なる『プラットフォームのプロモーション施策』ではなく、AI映像制作の業界構造そのものを動かしにきている動きだと感じました。

理由は4つあります。

ひとつは、テーマ設定の挑戦性。AIアニメが得意とする「かわいい」から真逆の Venomous Instincts に振り切った設計は、AI映像の表現幅そのものを広げる強い意思を感じさせます。

ふたつめは、審査体制の重厚さ。TapNow ×ByteDance ×日本のAIクリエイティブの最前線という構図は、グローバルとローカル、プラットフォームと現場、技術と表現、その全方位を貫く目線を持っています。

みっつめは、5軸の審査基準。物語性とテーマ表現の合算で50%という配点は、「AIで凄いものが作れた」というフェーズから「AIで作品が成立する」というフェーズへの移行を促す、業界全体に対するメッセージです。

よっつめは、賞構造の哲学。1st Prizeに3,500 USDを置きながら、完走した26チームすべてに Excellence Awards を配るという設計は、コンテストが業界を疲弊させないための、業界を運営する側としての成熟を感じます。

スムージースタジオも、放送・広告領域での生成AI実装を進める中で、こうした業界基盤を支えるイベントには引き続き深く関わっていきたいと考えています。本日はありがとうございました。

「こちらこそ、ありがとうございました。スムージースタジオさんとは、共同制作のショートドラマ、独占インタビュー、そして今回のハッカソン取材と、継続的にご一緒できていることに大変感謝しています。日本の映像プロフェッショナルとの協業は、TapNowにとって最も大切な資産のひとつです。これからもよろしくお願いいたします」

まとめ

TapTV Arena Tokyo · 36H Anime Sprintは、単発のハッカソンイベントではなく、TapNow AIが進める「TapTV Arena」というグローバルツアーの中で、AIアニメーションに正面から向き合う唯一のスプリントとして設計されました。

  • テーマ「Venomous Instincts」:AIが最も苦手とする「毒性・道徳的曖昧さ・心理的緊張」の領域に正面から挑む挑戦状。「かわいい」の逆を行く設計が、AIアニメの表現幅そのものを広げる意思の表明。
  • 審査体制:TapNow(Klaus氏)× ByteDance関連チーム × 日本のAIクリエイティブ最前線(新井モノ氏 / Yachimat氏 / 松丸彗吾氏)+ Mystery Guests という、グローバルとローカルが交わる5軸の評価体制。
  • 5軸の審査基準:テーマ表現25% + 物語の完成度25% + ビジュアル完成度20% + AI技術完成度20% + 発信可能性10%。技術ではなく作品としての話を見るという強い宣言。
  • 8カテゴリの賞構造:1st〜3rd Prize、Seedance 2 Special、Social Media、Best Director、Best Visual、そして完走した26チームを対象とする Excellence Awards。コンテストが業界を疲弊させない設計思想。
  • 36時間オフライン・クローズド:PCの会場外持ち出し禁止、Discord連携、共通テーマでの強制リフレーム——「人とAIの並列協業」を強制的に引き出す装置として機能。
  • 今後の展望:杭州、MIT、HKUSTなど各都市と連動するシリーズ展開。日本での継続的プレゼンスも本気で検討中。

審査結果は、イベント終了後7営業日以内に主催者から公式発表される予定です。受賞作品のワークフロー分析、クリエイターインタビューなどのアフターコンテンツも順次公開される予定です。

関連リンク

監修者:株式会社スムージースタジオ 弘田 朗(ひろた たから)
監修者
株式会社スムージースタジオ
弘田 朗(ひろた たから)
AI動画クリエイター/DXエンジニアとして、広告代理店や事業会社の動画制作・デジタル変革を多数支援。
AIを活用した動画生成やクリエイティブ最適化の実務経験を持ち、スピードと品質を両立させた制作フロー構築を得意とする。特に広告配信におけるABテスト用動画の生成や、ブランド一貫性を担保したAI活用の設計に定評がある。